昔からの筒井フリーク以外の方に筒井の名を知らしめたと聞く作品。一読すると文学批評論が載っていて、堅い文学作品に見えたのであろうか。内容は、大学の内情及び文学批評論をカリチャライズして描いたいつもの筒井らしい作品である。
一応、唯野と言う文学部の教授を主人公にした大学教職員間の醜悪な縦関係・昇進争いの暴露や唯野の口を通して語られる文学批評論がメインなのだが、これは筒井の普段の立場からの逆襲と言える。実名がすぐに分かる匿名とは思えない匿名を交えて、印象批評からポスト構造主義までの文学批評論がワザと饒舌かつ格調高く語られるが、筒井がそれらの批評論を全く信じていない事が良く分かる仕組みになっている。私の目には「虚構」と言う文字がヤケに大きく映った。実際、唯野の口を通して、こう語っているのである。
「批評家って人たちは最初から作家に負けてる」
作中の文壇ジャーナリズム批判も同工異曲である。権威に対する筒井の反発心が良く出ている。そして、これを唯野の周囲の大学の人間に関する哄笑談として描いている所に筒井の本領がある。「文学的日常精神」を基本としているとの設定が可笑しい。また、大学内部の組織や昇進機構や批評論に対する詳しい注釈が付いているが、これは目新しい試みである(特に前者)。日本の小説では、大企業や大学病院の内幕を暴いたものは幾つかあるが、大学機構そのものを描いたものは殆ど無いのではないか。私が思い付つく限りでは、趣きは異なるが、漱石「三四郎」が当時の帝国大学の雰囲気を漂わせている位である。
大学文学部や文学批評論や文壇ジャーナリズムをカリチャライズし、大学機構の紹介小説と言う新しい分野を開拓し、作家としての自負を誇示した筒井らしい作品。