斎藤美奈子の“文学解放運動”には共感する。さすがに今時“文壇”ではないだろうが、文学は明らかに時代から孤立し、世界と乖離してしまっている。斎藤美奈子は文学を愛しているし、やさしいので、そんな文学に手を差し延べる訳だ。
本書は商品カタログとして小説を読む試みである。「ファッション」「フード」「車」「ホテル」などの商品情報を小説から読み解いて楽しもうという訳だ。確かに小説に決まった読み方なんて無いし、アプローチは人それぞれ千差万別である。これは斎藤流の読み方でもあるが、“こういう読み方をしてもいいんですよ!”という文学初心者に向けた手引書でもある。自転車の補助輪、水泳のビート板のようなものかもしれない。斎藤美奈子は読者にもやさしい。
そんな著者の努力とは裏腹に、テキストとして取り上げられた大半の小説は商品が描けていない。しかも古典よりも最近の小説にその傾向は顕著である。著者は配慮のある書き方をしているが、ファッション表現など目を覆うばかりだ。ファッションや食が本当にわかるような人は小説家になどならない、という反語的な解釈もあるかもしれない。
この、文学の敷居を低くしようとする試みは、実は元々敷居は低かったということを図らずも証明し、その点でリアルな文学批評となっている。