夏目漱石に「吾輩は狸である」と言うほかない短編があった、臨終に唯一立ち会った若山牧水が見た石川啄木の激しさ、北原白秋の「落葉松」が示す驚くべき技巧、宮沢賢治が書いた自著の広告チラシ、梶井基次郎の単調で貧相な食事日記、軽井沢で堀辰雄が使ったステッキ……。
近現代日本文学の53人をめぐる、老練にして軽快な、「奇をてらった」文学随想集とでも言うべき1冊。北海道新聞に4年にわたって連載したシリーズを編集したものらしく、副題の「日本の文学百年を読む」に従えば、戦後から近年に至るまでが少し薄味で、戦前までの列伝風の一群の面白さがまさっている気配。作家群それぞれの作品群が、着実な古典へと成熟してきたゆえかも知れない。ともあれ、文字通り不思議な味わいの、練達のエッセイストによる、闊達自在な207頁だった。