吉本・江藤の対談といえば、加藤典洋が『アメリカの影』(講談社文芸文庫)で
「現代文学の倫理」 (1982年)を、大塚英志が『サブカルチャー文学論』(朝日
文庫)で「文学と非文学の倫理」 (1988年)を、それぞれ議論の出発点として
いるように、批評的なテーマの宝庫といえるかもしれない。
本書には上記の2編のほかに「文学と思想」(1966年)、「文学と思想の原点」
(1970年)、「勝海舟をめぐって」(1970年)の計5回にわたる対談が年代順に
収録されており、初めて吉本・江藤の直接対話の全容を1冊で読むことができ
るようになった。巻末には索引が付されており、ほぼ四半世紀にわたる対話の
中で繰り返し浮上するテーマ(安保闘争、大江健三郎、三島由紀夫など)につ
いても議論の推移が追いやすい。
個々の対談を見ると、夏目漱石、近世文学、国家論、知識人論、占領史研究、
ポストモダン、村上春樹など議論のテーマは多岐にわたっている。一方の発言
が3ページ以上にわたって延々続く箇所が何度もあり、対談に臨む両者の真剣
さが伝わってくる。また、意見対立によって緊張感を孕むやりとりも見受けられ、
スリリングで大変興味深い。戦後の文芸批評、戦後思想に関心をもつ人にとっ
て必読の1冊だろう。