高木貞治先生の影響で、我国には代数的整数論の良書が数多くあるが、「中等数論」へのコンパクトな入門書として、石田先生の『代数的整数論』と本書が特に優れていると思う。
代数体の理論では、代数拡大K/kにおける「素イデアルの拡大体での分解法則」とガロア拡大における「ガロア群の部分群と中間体との対応法則」、及び両者が美しく融合するヒルベルトの理論を、適切な具体例で理解する事が肝要である。本書で解説されている2次体と円のl分体は、Q上のガロア巡回拡大体で簡単ではあるが、非常に重要な具体例である。前半のハイライトは、アーベル拡大K/kのアルティン写像を定義し、円のl分体の部分体と2次体の場合に、その具体的な構成を明示している事にある。類体論を既知の方は、アルティン写像の核に合同イデアル群としてシュトラールとノルムの積が現れること(定理2.21)にニッコリと頷かれるであろう。
本書の後半では、デデキントのゼータ関数の(s=1での)留数から代数体の類数が求められるという良く知られた事実を確立し、円のl分体の部分体と2次体の類数公式が求められている。ここでは、デデキントのゼータ関数を概ゼータ関数として捉えると言う工夫が見られる。後半のハイライトは、2次体の狭義イデアル類群のコホモロジー群の考察から、ガウスの2次形式の種の理論の主要部が簡単に再構成できる事を示している事にある。2次体のアルティン写像として現れたクロネッカー指標がここで有効に活用されている事に、読者は大きな感銘を受けられると思う。
「アルティンの相互法則」の美しさを読者に伝えたいという著者の意欲が感じられる素晴らしい本だと思う。本書を読了された方に、D.A.Cox著 "Primes of the Form X2+nY2"という抜群に面白い本をお薦めしたい。本書がCoxの本への最良のPrerequisiteである事を認識して頂けるものと思う。