著者のE・T・ベルは全米数学者協会会長や全米科学振興会の副会長などを務めた。この本は1937年に初版が刊行され、以来数学史の古典として読み継がれている。ベルは「序論」にこう書いている。
<ここに紹介した数学者の生涯は、一般読者や、現代数学をつくりだした人間とはどんな人間なのか知りたいと思う人びとを対象に書かれたものである。私の目的は、今日の数学の広大な領域を支配しているいくつかの主流をなす考え方へ、読者を導くこと、しかもそれらの考え方をつくりだした人びとの生涯を語ることを通じて導くことにある>
<いくつかのもっとも大切な観念、たとえば「群」、「多次元空間」、「非ユークリッド幾何学」、「記号論理学」についても、おおまかな概念を理解するには、中・高等学校程度以下でも十分である。何よりも必要なのは、興味と落ち着いた頭脳とである。現代数学のこれらのいきいきした観念を吸収することは、熱い日中に飲む冷水のようにさわやかで、芸術のように人を鼓舞するものである>
<私たちが学校にはいって幾何学を学びはじめたときは、「点」という概念は完全にわかっていると思い込むが、この概念にしても、洞穴に芸術的な絵をかきはじめた人間からさらに長い歴史をへてようやくできあがったものである。
イギリスの理論物理学者ホイヘンスは「科学研究の最初から必要な条件であった抽象というものの最高形式としての、数学上の「点」を発明した知られざる数学者のために、記念碑を建てたい」といっている>
バートランド・ラッセルも「ひとつがいのキジも、二日という日数も、ともに2という数の実例であることを発見するまでには、いくつもの時代を経たにちがいない」と述べている。
私たちが何気なく使っている「数」にしても、あるいは幾何学上の「点」にしても、私たちの先祖たちの悠久なる努力が結実した知的遺産である。数学史を勉強し始めると、まずこのことに最初に気づかされる。そして、数学のほんとうの面白さが、ここから始まる。
残念ながら訳は、こなれた日本語になっていない。せっかくの名著である。もっとやさしくて、わかりやすい日本語で読みたいものだ。