著者の個性の出ようのないタイプの本だと思っていた『ゼロから学ぶ線形代数』(2002年 講談社)が面白かったので、「この人の本なら面白いかも」と読んでみた。内容はタイトルから想像したものとやや異なっていたが、「あなたが数学でつまずくのは、数学があなたの中にすでにあるからだ」という文言と出会った瞬間にシビれてしまった。
本書は、必要な箇所でそのつど数学史上のいきさつや著名な数学者の名を挙げながら、数学そのものから、数的能力、(具体的な教材・題材までを含む)数学教育のあり方についてまで、著者の考えを綴ったもの。1つの結論に向かって論述していくスタイルの本ではなく、むしろ、様々な思索を関連のあるトピックごとにまとめたような本。
取り上げられているトピックは、第1章「代数でのつまずき」(中心テーマは文字式)、第2章「幾何でのつまずき」(証明)、第3章「解析学でのつまずき」(微分)、第4章「自然数でのつまずき」(数学的帰納法)、第5章「数と無限の深淵」(1対1対応原理)。前半は数的能力や数学教育に関する言及が多いが、後半は数学的概念そのものの解説が増えてくる。この点、1冊の本として考えると、やや焦点がボヤけてしまっているように感じた。また、最後まで読んで見直すと「なるほど」と思うタイトルなのだが、多くの学生が「数学でつまずくのはなぜか」だけを論じた本ではないため、ややミスリーディングなタイトルだと思う。
個人的に面白かったのは、生態心理学の「アフォーダンス」の概念を数的能力に適用しようとしている点。人間の側に数学的世界という構築物があると捉えるのではなく、世界を構成する様々な事物の側に「数え上げられる」「数理的に表現できる」等の性質が備わっていて、それを探り出す力として数的能力というものを考えているようだ。
前著『文系のための数学教室』(2004年 講談社)も是非読んでみたいと思う。