この「敗戦後論」は発表当時、非常に大きな話題(賛否両論、否が多かったが)となったが、実際私もこの論文は相応の重要な問題提起を含んでいると思う。特に戦争を直接は知らない私にとっては、考えさせられるところが多かった。
これによって加藤氏は、「ネオナショナリスト」呼ばわりされることになったが、問題となった「自国の戦死者を先に追悼する」ということについて、私は戦前の日本と私たちの繋がりを確認する、という風に理解した(というかそうとしか読めない)。そもそも、戦前の日本が私たちと切り離されているとしたら、私たちにアジアの人々へ謝罪をする権利があるだろうか。彼があえて「われわれ日本人」という主体を立ち上げなければならないと考えるのは、あくまでも順序の問題であると思う。
ところで、この本の本当の読みどころは次の「戦後後論」ではないだろうか。ここで、彼は自らの専門である文学を通して、私たちが、ある「正しさ」(それは戦争責任の問題も含む)について「そんなこと知るか」という権利を認めて、その上で、そこを出発点にして「本当はそれじゃ駄目なんじゃないか、と(誤りうるかたちで)考えればいい」と言っていると思う。
全ての人が始めから「正しい」わけではないのだ。たとえ頭ではわかっていても、「正しさ」を本当には実感できなくて、しかもその「正しさ」が当然のことのように語られることに悩んでいた私は、この「戦後後論」に随分勇気づけられた。
「正しさ」の上からの説教ではない、私たち一人一人違う出発地点を認め、後押ししてくれる温かさと、誠実さが「戦後後論」にはあると私は思う。
いずれにせよ、読んで損は無いと思う。