今から5年ほど前、馬越氏の「情熱は影を従えて」を拝読しました。
その時の本の内容と、今作で語られる主人公の職業経験が重なっています。
つまり、これは馬越先生の実体験をベースにしているのです。
馬越哲学を巧みに文学に取り込んだ、馬越文学の完成でしょう。
それにしても人間の一代記というのは面白い。
今時でいえば、NHKの朝連の「カーネーション」といったところでしょうか。
他のレビュアーの方も書いていたように、親子の情からすら見放される箇所は読んでいて
あまりにも痛々しい。
漫画家の梅図かずお氏の傑作である「おろち」の「戦闘」を思い起こしました。
想えば梅図氏もまた、人間社会のあまりの不条理を経験した故に、シェイクスピアのように
仮面を被ることになったのでしょう。「まことちゃん」なんて嘘なのですよ。
梅図氏の本当の心の闇には、もう誰もたどり着けないでしょう。
馬越さんも同じなのでしょうか?
後半に救いがあるのが本当に救いです。
でも女性の大腸癌は、扱いにくい話題ではなかったのでしょうか?
次回作も楽しみにしています。
私ら一般人はこんな数奇な一生は送りたくても送れないでしょう。
本物の作家は職業作家からは生まれません。否が応でも人生の辛酸を嘗めつくした者のみが、傑作を後世に残せるのです。