内容紹介
著者からのコメント
カバーの折り返し
著者について
中島岳志 1975年生まれ。北海道大学公共政策大学院准教授。宗教とナショナリズムの問題を追究。主著に『中村屋のボース』(大佛次郎論壇賞受賞)『パール判事』『日本──根拠地からの問い』他。
辛淑玉 1959年生まれ。人材育成コンサルタント。企業、自治体、各種団体からの依頼で、改正均等法をベースにした人材育成、ビジネスショーなどの運営の傍ら各メディアで活躍。主著に『怒らない人』『悪あがきのすすめ』『ケンカの作法』。
香山リカ 1960年生まれ。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。臨床経験を生かして、各メディアで社会・文化批評など幅広く活躍し、現代人の"心の病"について洞察を続ける。主著に『なぜ日本人は劣化したか』『<私>の愛国心』『ぷちナショナリズム症候群』。
佐藤優 1960年生まれ。起訴休職外務事務官。ロシアでの情報活動などで「外務省のラスプーチン」と異名をとる。2002年背任容疑で逮捕され、一審、二審とも執行猶予付の有罪判決を受け現在上告中。主著に『国家の罠』(毎日出版文化賞特別賞受賞)『自壊する帝国』(大宅壮一ノンフィクション賞受賞)他。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
政治学者。北海道大学大学院法学研究科教授。1958年、岡山県生まれ。東京大学法学部を卒業後、同大助手を経て北海道大学へ。当初は五年ほどと考えていた札幌暮らしも早24年。途中、イギリス、オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジ、ウォーリック大学で客員研究員なども務める。グローバル化の荒波のなかで、人間の尊厳を守るための政治や政策をいかに実現するかという問いを考え続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
抜粋
山口二郎:一応私たちは、「私たち(日本)の政治は、私たちが決める」という前提で論じています。日本の市民の意思表示で国会の議席数が変わり、その結果、(自衛隊による)インド洋の給油活動休止のように、アメリカの要望する政策を日本政府が中止したというのは、日本の民主主義にとっては画期的なことだと思っています。ナショナリストの人はこの状況を喜ぶべきだと思うのですが、どうもアメリカの影を払拭できません。日本は本当に自立することはできるのでしょうか。
佐藤:アメリカは、マンガ「ドラえもん」に出てくるジャイアンのようなヤツなんです。圧倒的にでかい。歌も相当音が外れて聞くに堪えられないけど、聞かないとぶん殴られたりするので怖い。問題は「ジャイアンはね~、ジャイアンはね~」と言っているヤツが必ず周辺にいるということです。つまり、「アメリカは怖いよ~」「アメリカの影がね~」と過剰に言いながら自分の思惑を達成しようとする外務官僚、防衛官僚、政治家がすごくたくさんいます。
ただし、アメリカは、その過剰な反応をする奴(アメリカにとって都合のいい奴)を、最終的にはパクッと食べてしまいます。そういうような構図があります。アメリカに司令塔があって、「日本の奴らにこれをやれ」と指令するのではありません。
私は、自衛隊の給油活動は続けた方がいいと思っています。無料ガソリンスタンドですので、無料で石油を給油してくれると知ったら、みんなそのスタンドへ行って入れますが、このスタンドはなくても支障はありません。ただ、タリバンなどが息を盛り返し、ウサマ・ビン=ラディンも久しぶりに顔を出して元気になっている情勢のなか、テロとの戦いのなか、日本がいささかでも引き下がるのはよくないと思います。ですから、インド洋からタンカーを引き下げるというのであれば、何らかの代替案を出さなければなりません。たとえば、アフガニスタンで活動するNGOを守るために各国は軍隊を出しています。日本としてできる形は何かと考え、提示できないまま引いてしまったというのは、また「東洋の神秘の国」という目で見られるのではないかと思います。
日本の民主主義という観点から言うと、ここで引いたというのは確かに重要です。ただ、問題は何かということを原点に返って議論しなければなりません。テロとの戦いというものをやるべきなのか、やめるべきなのか。日本では議論されていません。本当にタリバンやアルカイダはテロリストとして位置づけていいのかどうか。ならば、パレスチナは? 政治家も外務官僚もわかっていませんので、これを機会に根っこからの議論をやるべきだと思います。
山口:単に引くだけでなく、医療など、生活を支える支援は何ができるだろうかということを議論して動くべきだと思います。
(中略)
官僚はアメリカを喜ばせると出世する
山口:本来の目的は難民の救援や秩序の回復で、そのための議論をするというのが筋道なのに、「アメリカを喜ばせる」というのが上位の目的になってしまっていることに問題があります。
佐藤:その通りです。事実、官僚はアメリカを喜ばせると出世しちゃうんですよね。繰り返しますが、官僚の職業的良心は出世です。それから、アメリカとの関係がよかった内閣は長持ちします。岸信介、小泉純一郎、中曽根康弘、いずれもアメリカとの関係がよいから長期政権になりました。アメリカが少しでも喜ばないようなことをする田中角栄は短命。森喜朗はロシアに入れ込んだという要素があったのかもしれない。
山口:橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗時代のユーラシア外交を佐藤さんがグランドデザインしたことがアメリカの逆鱗に触れたという世間の解説もありますが。ご自身ではどう評価されていますか?
佐藤:アメリカ人には嫌みを言われたこともあります。アメリカは簡単な二分法で情報分析をするのですが、たとえば、よい中央アジアの国と悪い中央アジアの国。キルギスはなぜかよい国なんです。キルギスは中央アジアのスイスという言われ方もしますが、それはある意味あたっています。スイスは世界でもっとも汚いことをやっている国ですから。キルギスは非常に腐敗した国で、初代大統領アカーエフは汚職と独裁体制を批判され国から追い出されました(チューリップ革命)。
一方、タジキスタンは悪い国とされています。アメリカはタジキスタンに臨時代理大使しかおいていませんでした。しかし、9・11が起きた瞬間、結局、(アメリカは)タジキスタンに基地が必要になります。そこで、タジキスタンのラフモン大統領を説得する必要がでてきた。タジキスタンはロシアと国境を接していますので、国境の向こうのロシア軍を刺激したくありません。しかし、アメリカの援助もほしいので、事前にロシアに仁義を切ってからアメリカにOKすると言ったんです。タジキスタンに行ったときにこの計画を聞かされた鈴木宗男さんは、これを世界に発表していいかとラフモン大統領にたずねると、「日本のあなたが発表するならばいい」と答えたんです。ラフモン大統領は用意周到に計算し、アメリカの同盟国ではあるけども、ロシアとも関係のよい政治家を利用したわけです。