ICRP(国際放射線防護委)が奉じ、日本政府が依拠し、メデイアが追随する「放射線はいかなる量においても有害」とする思想(LNT仮説)に科学的根拠はない。なぜ放射線を売り物にする温泉が繁盛するのか、放射線レベルが日本の何倍もある地域で住民が長生きしているではないか、基準値の何百倍もの放射線を浴びる宇宙飛行士の健康をどうして誰も心配しないのか、等々、人が普通に抱く疑問にLNTは何も答えない。
著者ラッキー博士が開拓した低線量放射線有益(ホルミシス)理論は、博士の言うLNTドグマに対する真っ向からの挑戦である。それは既に30年近い歴史を有し、内外3千本以上の論文に支えられ進化してきた。少なくとも公論の場において正当な評価を受け、通説と競い合う資格は十分にある筈だ。しかし、これまで当局も「主流」学界も一切無視を決め込み、マスコミはその実情を報じようとしない。
問題は、LNT vs ホルミシスの優劣以前に、放射線と健康をめぐるこうした事実上の言論統制、それによる国民の選択肢の制限にある。それは多分に広島・長崎の惨禍を背景とする原子力を絶対悪視する心情への迎合であり、反核イデオロギーに発する政治的思惑とも絡んで根深いものがある。しかし、放射線風評被害の現実はこのような前科学的対応を許さないところまで来ている。
「もし、日本政府が ・・・ 福島原発事故への対応にあたってこうした(LNT的)思い込みに支配されるなら、既に苦境にあえぐ日本経済が途方もない無用な失費に打ちのめされることになろう」―本書に収められた論文の一つでラッキー博士はこう警告した。残念ながら、事態は正にこの警告通りに進んでいる。
本書の核をなす三つの論文は学術論文であり、一般読者にとって必ずしも読み易いものではない。この点において、茂木弘道氏の解説は重要なポイントを普通人の視点から手際よく摘出、整理していて大そう役に立つ。この本が出来るだけ多くの人に読まれ、上述のごとき放射線論議の偏向打破に向けての世論形成に寄与することを期待する。