医療や工業などの様々な分野で広く使われる放射線に関して紐解いた本。
医療では、核医学診断法のPET・ガンマナイフ・重粒子線装置を紹介している。放射線の人体への影響も確定的影響と確率的影響まで説明している。
手荷物検査・非破壊検査に始まり、日本の基盤産業とも言える自動車産業での用途・ダイオキシン除去・考古学での年代測定など、説明されている事例は幅広い。カレー毒物混入事件で有名になったSPring-8の仕組みも解説されている。
歴史上の人物もレントゲン,ベクレル,キューリー夫妻などが登場する。福島第一原発事故以降は、毎日のようにベクレルの単位を聞くが、単位の元となったフランス人の物理学者アンリ・ベクレルと写真乾板の話などは雑学として使える。
銀座での放射線の具体的な測定値が示されているほか、新幹線・地下鉄の駅・海岸など、著者が測定した放射線の一覧表もある。福島第一原発事故よりも4年以上前の出版であるため、これらのデータは作為的な加工を心配しなくて使える値である。
原発関連も「原子力発電にともなう放射線」と題して簡単に触れられ、六ヶ所村の再処理工場の廃棄物が日本原燃からの出典として示されている。放射性物質は、原発よりも再処理工場の放出がやや多いと説明しているが危険性は指摘していない。
著者は、チェルノブイリも訪ねているが、特に不安を感じなかったようだ。福島第一原発事故後であるなら、原発に対する著者の考えは変わった可能性もある。序章では、リスクとして専門家ほど、自動車・喫煙・飲酒を指摘するが、婦人や大学生は、原子力発電を危険のトップに名指しするとしている。この結果自体が原発推進派による情報操作だと今の日本人なら理解できるが、著者が素人ほど原発を怖がるような表現をしている点は残念である。
本書は“正当に怖がることはなかなかむつかしい”との寺田寅彦氏の引用から、“放射線を「正当に怖がる」”ことを目的としている。少しでも放射線のことを理解して、正当に怖がりたいが世間には情報操作が多く、真実は見えにくい。