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本書は,5年前に出版された同じタイトルの本
西川文二『犬は知的にしつける』ジュリアン(2006/10/15) の改定版です。初版の写真が新しいものに差し替えられたり,数枚が新たに追加されていますが,内容は初版とほぼ同じです。
もっとも,「さいごに」は書き換えられており(初版245-246頁→246-247頁),参考図書も6冊が追加されています(初版247頁→改訂版250頁)。しかし,本文については,私が比較してみたところ,4-3:さあ,犬を動かしてみよう(初版91頁→改訂版89−90頁)と,6-14:拾い食いを何とかしたい(問題行動の対応・改善)の部分(初版210頁→改訂版206-209頁)が追加されただけだと思います。
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初版を購入しておらず,「一緒に暮らし,どこにでも連れて行ける,楽しい時間を共有できる」ように犬にしつけたいと思っている人にとっては,本書の学習理論と具体的なトレーニング方法は,非常に有益だと思います。
私は,本書の第3章第6節「犬はボディランゲージで会話する」の犬のリラックスした表情の写真,ノーマルな姿勢の写真,警戒の姿勢の写真の対比に興味を引かれ,第7節の「カーミングシグナルを知る」を契機にして,
テゥーリッド・ルーガス(石綿美香訳)『カーミングシグナル』エー・ディー・サマーズ (2009),
スタンレー コレン(木村 博江訳)『犬語の話し方』文集文庫(2002),そして,
ヴィベケ・S. リーセ(藤田りか子訳)『ドッグ・トレーナーに必要な「深読み・先読み」テクニック: 犬の行動シミュレーション・ガイド』誠文堂新光社 (2011)にたどり着くことができました。これも本書のおかげです。
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本書の特色は,従来の犬のしつけ方が,「しつけイコール叱ること」であったのを(第1章),叱ることでは,しつけの効果が期待できないばかりか(第2章),人と犬との信頼関係を破壊するリスクが大きいことを明らかにしつつ(最終章),「しつけの基本はほめること」であることを具体的な場面で実証しており(第3章〜第6章),初版以来,読者から高い評価を得ています。
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ただし,類書と比較してみると,本書には,以下のような2つの問題点があるように思われます。
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第1点は,初心者にとって記述が難解なことです。初版もそうでしたが,改訂版になっても,本書の読みにくさは改善されていません。本書は,著者によって,犬のしつけ方の「理論書」(247頁)と位置づけられていますが,理論的に検討しながら読み進めると,つまずく箇所が続出します。
その理由は,長島はちまき氏の見事なイラスト(15頁は圧巻)を使って同じ著者が解説した類書である
西川文二『うまくいくイヌのしつけの科学 学習心理学、脳科学、行動学から考える正しいイヌとのふれあい方』ソフトバンククリエイティブ(2009/06/16)と読み比べるとわかります。
なぜなら,本書では,「覚えるべき原理・原則は3つだけ」(24頁)とされていますが,その3つの原理のうちの第1原理(筆者のトレーニング理論)が2つに分割され,第2原理(スキナーの行動心理学によるオペラント条件付け)が4つに分割され,最後に,第3原理(パブロフの犬に代表される古典的条件付け)が配置されるというように,3つの原理・原則が複雑に分岐されながら説明されており,初心者にとって理解が困難だからです。
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第2点は,本書が,「もしあなたの目の前にいる犬が,好ましくない行動ばかりする問題犬であるのなら,それは生まれつきでも,犬種のせいでもなく,しつけを怠ってきた飼い主,すなわちあなたのせい。そう理解することです。」(60頁)と述べていることです。
本書は,このように「飼い主のしつけ責任」を強調していますが,このことは,わが国における犬の流通過程における悪質なブリーダーやペットショップの責任を免責することになりかねません。
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この点に関しては,強烈な反対論が存在します。たとえば,本書の初版が出版されてから3ヶ月後に出版された
堀明『犬は「しつけ」で育てるな! 群れの観察と動物行動学からわかったイヌの生態』築地書館 (2007/01/22),および,改訂版の出版される1ヶ月前に出版された
堀明『犬は「しつけ」でバカになる―動物行動学・認知科学から考える』光文社新書(2011/02/17)は,第1に,犬の社会化を阻害する現在の流通過程を改善することが何よりも必要であり,いわゆる「バカな犬」の責任を飼い主に押しつけるのは問題であること,第2に,過度のしつけと,犬に対するコントロールは,犬と人間との信頼関係を築く上で,かえってマイナスとなることを指摘しています。
著者に対して,第3版では,以上の点について応接されることを望みたいと思います。
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本書は,確かに,犬をしつける極意を「ほめてしつける」という観点から明らかにしている良書です。この点は高く評価されるべきです。しかし,犬を飼うことの究極の目的である犬と人間との間の「信頼関係」を構築する上で,「生活全般に渡って飼い主が主導権を握っている,それを伝えること」(222頁)が最上の方法なのかは,上記の類書を読み比べることによって,読者自身が決める問題だと思います。
本書の「褒めてしつける」方法には全面的に賛同しつつも,本書の評価を下げたのは,以上の2つの理由に基づきます。
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