このアプローチのSFは初めてかも。深海のオーパーツという状況設定はスフィアに似てるし、キャラクタ設定は光瀬龍の百億の昼のシッタータとナザレの大工にそっくり。けれども、無敵のスーパー赤ん坊のカルエルが善良なケント夫妻にクラークケントとして育てられる幸運に恵まれなかったとしたら?というWhat ifが沢山詰まっています。
タイムスパンがべらぼうに長いのも百億の昼に似てる。不老不死だから繁殖する必要もないし、無敵だから競争する必要もないし、締め切りがないから無目的に生き続けることも自由だったら?時間の概念や生きる死ぬとか善悪の常識をリセットすると十分に楽しめます。
食物連鎖の頂点に立つという位置づけで生きてきたチェンジリングが大恐慌時代のカリフォルニアに上陸して、サヴァン症候群の患者として成長して行きます。肉食獣であったソレは食事のために殺しを行う必要がないことを学習します。海兵隊でしごかれて、日本軍の拷問にあって友情を学習し、斬首刑にされることにより、同情も憐憫も持たぬ日本兵を反面教師として慈悲の心を学習します。実際、上陸以降は人間を一人も殺さなくなります。
一方、根っからのワルのヨーロッパ起源のヴァンパイアは自分が一人勝ちし続けるために同類を探し出して殺そうとします。コイツはナチのメンゲレに弟子入りして、アウシュビッツやビルケナウで悪逆非道のスキルに磨きをかけます。これらの不老不死の存在同士が対決したら?
チェンジリングの成長過程での極悪日本兵は日本人にとっては耳が痛いところ。でも極端な悪が善と慈悲を照らし出す役目を果たしています。仏教の極楽から娑婆におりて遊んで修行するという教えに近いものがあります。ピノキオが良い子であり続ければいつか人間になれるというお話にも似ています。エンディングはあっけないけどとても爽やかです。