文語体の調子が初めはとっつきにくいけど、それも次第になれてきてスラスラ読めるようになるのは、「英語だとこうはカンタンにいかない、おれってやっぱり日本人」というよりも、やはり荷風の練達した文章のうまさのせいか。日記といふもの、淡々とした日常に突如噴出する恨みや嘆きや怒りほどおもしろいものはなく、大正15年と昭和3年のものに読むべきものがアル。当世文士気質を「世の文学者といふものは下宿屋とカッフェーのほか世間を知らず、手紙も書くことを知らず、〈中略)まことに人間中の最も劣等なるものなり」と唾棄し、その代表として菊池寛を公然と俎上にのせているが、その蛇蠍の如き扱いから菊池寛の日記があれば照応してみたいと思うほどだ。