歴史研究の深化に伴い個別細分化された歴史書が多く、研究者はそれで良いかもしれませんが、一般の歴史好きには難解すぎるものが見受けられます。そんな中、本書は史料を駆使し、絵解きを通して読者に向けて分かりやすい文章で説明を心がけているのが感じられる好著です。
「歴博甲本」「上杉本」「歴博乙本」「東博模本」の4本の「洛中洛外図屏風」を取り上げ、それぞれの制作年代、制作者、発注者を明確に解き明かしています。過去の研究史も丹念においながら、各人の学説のポイントも整理して簡潔に伝えていますので、それぞれの研究成果の妥当性や疑問点を分かりやすく提示し、それを受けて自説を見事に展開しています。
米沢市上杉美術館が所蔵している有名な国宝「洛中洛外図屏風」(上杉本)について言及されている書籍は多いのですが、小島道裕氏が国立歴史民俗博物館教授ということもあり、「歴博甲本」に描かれている建物や人物に着目し、それが誰であるかを検証していく過程は知的好奇心を満たすもので、歴史研究のダイナミズムを感じさせるものでした。
室町幕府の場所の考察を通して「柳の御所」のあり方まで浮き彫りにしています。当時の京の姿を丁寧に追いながら紹介していますので、まるで室町後期の洛中を歩いているかのような気分になりました。
口絵にあるように、京都の様々なお寺や名所、当時の庶民の生活を通して、戦国の世における洛中や洛外の風景描写は見飽きません。狩野派の絵師の継承性も理解でき、政治史だけでなく美術史の観点からのアプローチも素晴らしいと感じました。