神出鬼没の怪盗・黒蜜柑から至宝を護るべく、警察が設定したのは、最新科学技術
の粋が凝らされた鉄壁の密室『パンドラ』と、路面電車という衆人環視の“動く密室”。
しかし、どちらも、まんまと黒蜜柑に破られてしまい……。
シリーズ完結編となる本作は、江戸川乱歩の作品を彷彿とさせる怪盗モノ。
リアリティは度外視して、外連味溢れる活劇を楽しめばそれでいいのですが、作者
の持ち味である、細部から確実にボトムアップしていくロジックは本作でも健在です。
本作の二つの密室のうち、『パンドラ』は“世界にひとつしかない”何重にも
セキュリティが敷かれた施設で、それが事件当時、問題なく正常に機能して
いたことについては、後にあかねが、メモに箇条書きにしてまとめています。
そこに書かれた何の異常に窺わせない九項目の
記述の中に盲点が設けられているというわけです。
一方、“動く密室”の事件の際には、宝を盗まれるだけ
でなく、ある人物が、日本刀で刺突されてしまいます。
事件当時、電車内は立錐の余地もない雑踏、外は師走の渋滞といった状況の下、
救急車がやって来るという経緯なのですが、そこに怪盗らしい手口で、欺瞞が謀ら
れています(コモ曰く、怪盗モノは〈物理トリックと人海戦術の世界〉だそうなので)。
細かい物証をもとに緻密な論証を行い、事件を再構成していく手筋は流石
なのですが、詰めの部分は一足飛びに結論に飛躍している感があります。
しかし、本シリーズをこれまで読んできたことで、それを無理筋
と感じず、味だと感じられるぐらいには、作者に感化されましたw
残念ながら、本作で『探偵小説』シリーズは完結
ですが、新たに相生シリーズが始まるとのこと。
今度は、どんな奇抜な趣向を見せてくれるのか、今から楽しみです。