弟が何気なく私の目の前に置いて「なかなか面白いかも」といったのが本書を読むきっかけであった。祥伝社の「ノン・ノベル」版として刊行されたのは1990年だから、かなり昔の作品である。そのときは、『依頼人の娘』という所収されていた一作品の表題であったが、その後、角川文庫から『探偵倶楽部』として復刻した。著者自身も当初はこの表題での出版を希望したが、何らかの事情でそれは叶わなかったと述べている。むろん現在は『探偵倶楽部』として版を重ねている。
本書は「依頼人の娘」を含む計5本の短編が収録されているが、フーダニット(犯人)・ハウダニット(手段)そしてホワイダニット(動機)という本格推理小説に不可欠なエッセンスがすべて盛り込まれている。初期作品としてはなかなかの出来栄えで、それなりに注意して読まないと理解できない箇所もあった。単純に「面白い」というよりは「凝った」諸作品ばかりだというのが率直な印象である。「ノン・ノベル」は上下に文章が載る配列で字も小さくやや読みにくいという難点があるが、それは内容が十分にカバーしているといえるだろう。東野作品としてあまり知られていないように個人的には思うが、どうであろうか。レビューも少ないのが残念だ。
本書に登場する会員制の調査機関というべき「探偵倶楽部」(男の探偵と女の助手の計2名)は、著者の言葉にあるように「主役」ではない。彼らは所属会員の依頼を受けて調査を請け負う人間であり、あくまでも「脇役」という位置づけである。「謎に巻き込まれた人間を描く」ことに比重がある作風のためだが、彼らはその風格・容貌からして、強烈な存在感を放っている。ゆえに「脇役であって脇役ではない」印象を抱いた。彼らの調査能力は折り紙つき。調査報告書が「レポート用紙の分厚い束」というのも印象的だった。その後の「探偵倶楽部」の活躍は誰も知らない。続編を待ち望むファンも多い気がする。