この文体は読者を択ぶ。私には読みづらかった。例えば、何気ない会話の中に伏線が織り込まれているかと思いきや、単に冗長なだけで終わっていたり、会話文で誰が喋っているのか判りづらかったり、このスタイルを受け入れるには相当人間が出来ていなくてはならない。
細かい点で気になるのは、冒頭でバーに入った探偵が、バーテンから直ぐにおしぼりを差し出されるのだが、短い会話の後、バーテンは探偵と馴染みなので探偵のピース缶や胃腸薬を出す時、再びおしぼりをカウンターに置く描写があり、これが判らない。こんなにおしぼりを出すバーがあるのだろうか?
話の入り口だったので些細な事だが気になり、以後、色々と注視する対象が増えてくるのだが、中盤でデートクラブの女モンローを重要な場面で偶然見かけるが、この女の存在を探偵は既に知っているという認識があり、それなら、探偵のそれまでの捜索の過程でモンローを探すのが筋だろう。探偵はデートクラブがキーポイントだと思うフシがあったのだから。
被害者の美しい恋人に対しても次の展開を期待させておいて結局何もないので、アバウト過ぎやしないか。ハーフ?・ボイルドを狙っているのは判り、さりげなく書いているように見せてよく練られているところは感心するのだが、最後まで感情移入が出来なかったので、探偵の思い入れに共振される事はなかった。
せめてプロットが良ければ共鳴もするのだが、ありきたりの風俗小説でミステリーですらなかったのが弱い。唯一共感出来たのは、ラスト辺り、麗子が探偵に云う科白、「あんたみたいな、人をバカにするタイプの人間、たくさん知ってるよ。見てなさい、今に大怪我するから」。そうなんだ。当にそういうタイプ。自分の事をよく知っているではないか。