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東直己が作家生活のスタートを切り始めた時期の、しかも大変興味深い改題前タイトルの作品集ということもあって、絶版が惜しまれていたのだが、作者が有名になれば遡って再版されても商業的には文句なしという良い例なのだろう。
すすきの探偵シリーズにおいても、あるいは畝原探偵シリーズにおいても後々取り上げられることになる、カルト教団やAという文化が早くもこの短編集で姿を見せているところなど、まるでその後の作品のための持ち駒の試し撃ちの様相を呈していたりするが、何よりも東作品に共通してみられる優しさの原形がこんなところにあったのだと納得。タフでありながら優しく……フィリップ・マーローの定義通りに作品を送り出している東直己ならではの世界が広がるなかなかにきらびやかな原石の群れである。
もともとススキノ探偵シリーズはユーモラスな書きっぷりで笑いを禁じ得ない箇所などがてんこ盛りなのだが、この短編集は心優しき天才探偵ソープ嬢のくるみと脇役たちの愛敬たるや相当のものなので、誰もいないところで一人で読まないと、にやにやおじさんや牛乳吹き出しおばさんになってしまうので注意! おかしく、そして哀しい、あくまで庶民の側の正義漢。東ヒーローならぬ、初代東ヒロインの活躍ぶりを是非とも読んでいただきたい。
ちょうど軽探偵シリーズというイメージで戸梶圭太が『ご近所探偵TOMOE』を今年やっぱり薄手の文庫シリーズでどこどこと出版したが、けっこうこのくるみ嬢の影を引きずっているのではないか? と思える節もあったりするのは勘繰り過ぎか? ほとんど作者の理想的女性でもあると思われるくるみ。登場の仕方はシャーロック・ホームズばり。一度会ったら忘れられないこと請け合いの名探偵である。
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