大手エネルギー会社に新たに設置された環境対策部署を任された冴子という40代の女性が主人公。同期の男性社員が会社の中心的業務で大口の契約を取っているのをよそ目に、体よくやっかい払いされたのではと暗い気持ちになる。海の物とも山の物ともわからない排出権の売買を手探りしながら開始し、中国や東南アジアを駆け巡る日々が続く。したたかに駆け引きする中国人経営者に振り回されたり、国益がからみ内部紛争している国連機関の審査に翻弄されたりと、業務は難航を極める。このフィクションの見所は、冴子の手腕である。冷静で飾らない女性だが、打たれ強く行動的で、時には理不尽なことばかり言う中国人重役に啖呵を切る場面もある。誠実で建設的な提案だと気づくと、はじめは乗り気でなかった営業先の人々も、いつしか排出権取引に積極的になっていく。
CO2削減への取り組みや、商社、銀行、国連機関の仕事の実際を知りたい人には、新書などよりもこの小説の方がおすすめである。ストーリーが面白いし、主人公が魅力的。黒木亮は、食事風景も非常に綿密に描いているので、思わず読んでいて食べたくなることも多く、二倍楽しめる。