表があれば裏があり、投げ手がいれば捕り手がいる。投手が表なら捕手は裏だろう。たとえば「江夏の投げた21球」は「水沼のリードした21球」でもあるのに、ついた物語の表題は「江夏の・・・」となる。
本書は、裏方と見られがちな捕手の立場から、プロ野球の知られざる世界を解き明かそうとした画期的な書物である。捕手が実にいろいろな役割を担っているかが解るだけでなく、打者や審判とのトボケた会話に笑ってしまったり、バッテリーの人間味にホロリとさせられる場面、またその正反対の場面もあり、読んでいてなかなかおもしろい。オリンピックのスプリンター飯島選手が「ドン!」の声でスタートしてしまった話など、ペーソス漂う寸劇である(真偽はわからないが)。
異色なのは「メジャー捕手」「ブロッキング」「キャッチング」の章だ。これらは私にとって未知の世界であり、「捕手」という名の深い深い森のような世界だ。もしその中に迷い込んだらもう戻れないのではないかと思うほど奥が深く、出口が見えず、恐ろしくもあり、しかし前へ前へと進みたくなる森だ。
来期メジャーへと進路を定めた城島捕手は、今やこの深い森に一歩足を踏み入れたと言えるだろう。日本人捕手として前人未到の森である。はたしてどんな世界なのだろうか。
最終章「捕手とチームプレー」も新鮮だった。選手だけではなく、コーチングスタッフや監督も含めた新しい概念の総合的チームプレーがそこに存在する。最後の大野投手のコメント「このキャッチャーのために...」は感動的であり、捕手のひとつの理想像を示唆しているだろう。