昨今、話題に事欠かない捕鯨問題だが、本書の著者は以前から関心を持って丹念に取材し、今回、本書の形としてこれまでの成果を興味深くまめあげていることに成功している。
本書は著者と同年代の人間なら抱くであろう素朴な疑問が端緒となっており、読者の広くは実に興味深く読み進めることができるのではないだろうか。そして、そんな著者の素朴な疑問から始まるクジラの物語は、海の深奥に潜むクジラの神秘性とそれを追いかける人々のさまざまな人生模様でもって色濃く、色鮮やかに紡がれていく。まさにモビー・ディックで知られる名著「白鯨」さながらの展開を見せてくれる。まさしく本書の読みどころであり、クジラにまつわる科学的な数値データだけでなくクジラそのものを目の当たりにし、そしてクジラにあやかる人々の現場に体当たりで足繁く通った著者だからこそ発せられる言葉であろう。本書が血の通っうルポタージュとして読者を魅了するのも納得がいく。
本書のスタイルとしては、タイトルにもなっているように「クジラ」の問題として著者のルポタージュが展開されていく。当然のことながら、最後は「人間」の問題として焦点が当てられていくことになるが、そもそも、現在どこまでクジラの生態がわかっているのか、また環境破壊と人口激増による食料難が危惧される今、捕鯨なしでクジラとの共存は可能なのかどうか、捕鯨そのものに対する日本人の考え方のあいまいさはどこからくるのか。本書は文化・経済・科学といった多角的視点からクジラを解剖してみせることで、読者自身の素朴な疑問に対する答えへの道筋を作ってくれる一助になると思われる。
是非、著者の次回作を読んでみたいと思う。