野口雨情が書いた「赤い靴の女の子」
昭和48年(1973)11月に北海道新聞夕刊に岡そのさんという人の投稿が掲載されました。
その投稿には「野口雨情の赤い靴に出てくる女の子は私の姉です」とありました。
この記事をきっかけに、当時北海道テレビの菊地寛さんが「女の子」探しを始め、ついには岡そのさんの投稿にある通り、義姉の「岩崎きみ」さんこそがモデルであると確信するに至ります。その過程が北海道テレビでドキュメンタリーとして放映され、その後全国からの募金が集まって「岩崎きみ」さんの像まで建てられました。
著者はこのドキュメンタリー制作に脚本家として参加しており、当事から憶測を確信として表現することに違和感を感じていたと言います。
ドキュメンタリー番組が放映されたことで、本来仮説であったはずの「岩崎きみ」モデル説が一人歩きしてしまい、事実であるかの如く銅像まで建てられたことに強い怒りと悲しみを覚えます。
著者は自身の疑問を解消すべく、果たして本当に「岩崎きみ」さんがモデルであったか否かの検証を始めます。色んな文献をあたるうちに、全ては菊地寛氏の捏造であったと結論づけます。ドキュメンタリー番組の制作が前提にあり、そのためには「岩崎きみ」さんがモデルである必要があったというのです。
確かに著者の調査は説得力があるもので、明らかに菊地寛氏の思い込みであったり、不都合な事実については無視していたとしか思えないふしがあります。
但し、読み物として面白いかと問われれば、首を傾げざるを得ません。
それまで分からなかった事実が解明され、次第に明らかになるのには、とても興奮を覚えます。
しかし、本書の主題は「岩崎きみ」モデル説は、菊地寛氏の捏造であり本当のモデルはわからない、というものです。
正確には、「赤い靴の女の子」にモデルはおらず、野口雨情の完全な創作であるとの仮説が提示されていますが、それこそ著者の仮説(思い込み)に過ぎないかもしれません。
要は明らかにされたはずのことを捏造として崩していくのですから、残念ながらワクワクしながら読める本ではありません。
過去を検証し、真実を正していくという意味で、本書の価値はあるのでしょうが、いち読者として純粋に楽しめる本ではありませんでした。