有名な本なので一度読んでみたいと思っていた。ママン(母)、ハズ(夫)、アミ(愛人)、コキュ(寝取られ亭主)などあまり使われない外来語がふんだんに出て、内容も戦後の時代を反映したものである。
登場人物は戦争経験があり、仕事に没頭しているが虚無的な桂木。冷静できれいでやさしくつつましやかだが、医学生と不倫をしている桂木夫人。芸大を狙い何年も留年していて怜子が好きだが言い出せない誠実過ぎる幹夫。そして身体は弱いが奔放に生きる怜子である。物語は桂木夫人の不倫と怜子の桂木氏との不倫を軸に進展するが、桂木夫人の不倫は世間をはばかり、夫に罪の意識を抱えたままつつましく行われるが、夫はそれを知りながらとがめだてできない気持ちの桎梏がある。それを奔放な怜子があからさまにする……。
しかしながら、怜子に悪気はないのである。自分の愛に純粋なだけなのである。それはあたかも新しい時代の人間が古い戦後を引きずった世代を凌駕する「時の必然」のようであった。
同人誌に掲載された小説が昭和31年に単行本化されあっというまに70万部売れた大ベストセラーになったのは、単なる不倫小説でなくそのような時代背景があったように思う。