全般に『指輪物語』世界の魅力を多面的に、より深く伝えるものになっていて、一般の『指輪』愛読者にとっても一読の価値のある本だと思う。日本語オリジナルの『指輪』論集は意外になかったのだ。
批評史のサーヴェイは、手法自体はオーソドックスだが、『指輪』が社会に与えたインパクトも含めてよくわかるし、これに教えられて評者も英語での『指輪』論を何冊か入手し、読むきっかけになった点でも役に立った。
トールキンの生涯から正統派のファンタジー論、象徴論、映画論、サブカルチャー関連の考察まで、多角的な視点からの論考が収録されていてどれも興味深いが、評者が特に興味深く感じたのは赤井敏夫氏の「二つの読み」に関する考察だ。前近代的な物語構造・読みと近代的なそれとを対比しつつ、トールキンの創作背景が結果的に前者を引き継ぐものとなったこと、それが結果的にポスト近代的な読みの道筋を開くものになったこと、という論は、物語論・読書論としても第一級の内容だし、『指輪』の枠を超えても示唆的なものだと感じた。
さらに深く味読するには、翻訳書だが『指輪物語をめぐる16 の哲学』もいい。