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指紋論 心霊主義から生体認証まで
 
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指紋論 心霊主義から生体認証まで [単行本]

橋本 一径
5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

19世紀後半、身元確認の手段として発見された“指紋”が与えた知られざる衝撃。指紋を残す「幽霊」たち、指紋捜査に冷淡な名探偵ホームズ、指紋採取に対する市民の嫌悪感情―。社会問題からオカルトまで歴史の謎めいた諸断片を渉猟し、近代的主体の変貌を鮮やかに描き出す逆説の身体‐社会論。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

橋本 一径
1974年生まれ。東京大学文学部宗教学・宗教史学専修課程卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員などを経て、現在、愛知工科大学専任講師、武蔵大学兼任講師。東京大学博士(学術)。専攻は表象文化論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

登録情報

  • 単行本: 308ページ
  • 出版社: 青土社 (2010/10/23)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 479176496X
  • ISBN-13: 978-4791764969
  • 発売日: 2010/10/23
  • 商品の寸法: 19.4 x 13.6 x 3 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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9 人中、8人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
贅沢な読書 2010/10/31
指紋の話なんてそんなに面白くないだろうと高をくくって読み始めたが、案に相違してとても面白かった。冒頭から語られているのは何と幽霊(!)の指紋の話だし、そこから話題はじつに多岐にわたり、指紋のみならず、ひろく人物同定の技術史が辿られてゆく。文章は端正でよみやすく、まるで推理小説のようなドラマティックなエピソードも豊富に紹介されているため、終章まで、いささかも飽きることなく、読書開始からわずか数時間でたどりつけてしまう。

なんとも贅沢な本だと実感されるのは、巻末の註や参考文献表を眺めてみたときだ。渉猟されている膨大な一次資料の大半は、どれもきわめて地味なもの(たとえば19世紀フランスの法医学の専門的な論文)であるようだし、もし自分でその種の文献を探したり読んだりしなければならないと思うとゾッとするが、本書の著者はおそらく、これらの硬い材料をあらかじめ大量にかみくだき、消化したうえで、いちばん味のある部分だけを選びとり、そこから、これほどソフトでリーダブルな書物を紡ぎあげているのである。地道で手堅いインプットと読者へのサービス精神にあふれたアウトプットとの間のギャップに、著者の並外れた技量が透けて見える気がする。
このレビューは参考になりましたか?
12 人中、10人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By いば
指紋は一人一人全て異なっていて、同じものというのは存在しないらしい。よって、それは犯罪捜査における犯人の同定に大いに有用な材料となる。これはもはや、子どもから大人まで誰もが知っている事柄であろう。

あまりに普及した知識ゆえ、最近の推理小説や映画・TVドラマで、指紋が重大な犯罪証明の鍵になるような作品は、もはやほとんどないほどだ。

殺人犯が、犯行後に用意していたハンカチで現場の指紋をきれいに拭き取って逃げ去っていく。あるいは、犯人は始めから指紋を残さぬよう手袋をしていて、犯行を隠して自殺に見せかけるために、血を流して横たわる被害者の手に、凶器として使用した刃物や拳銃を握らせる。

こんな場面を、今まで何度目にしてきただろう。もはや、それは推理物(ミステリー)のよくある「枕」、クリシェでしかない。

だが、当然のことだが、何事にも始まりがある。指紋というものが、特定の個人を同定する材料として本格的に利用されるようになったのは、今からちょうど1世紀ほど前のことだそうだ。近代科学の時代の到来が、初めてそれを可能にしたのだ。

人間の曖昧な記憶に頼らず、個人を「客観的に」「科学的に」同定する方法というものを確立するために、19世紀末から20世紀初頭の欧米を中心に、さまざまな試みがなされた。それらは特に、身元不明の死体の身元をつきとめたり、社会にとって危険な犯罪者のデータ化を目指して行われたものだった。指紋の活用も、そういった様々な試行錯誤の果てに登場してきたのだ。

本書は、そんな「身元確認の科学」とも呼ぶべき事柄の歴史について、詳細に教えてくれる。身元不明の遺体をガラス越しの見世物のように公開していた、パリのモルグの話、ベルティヨンの人体測定法、等々、指紋以外の方法についても我々はよく知ることができる。

そして、本書の基になっているは博士学術論文でありながら、その記述と内容は四角四面の堅苦しさはまったくなく、非常に読み易く、めちゃくちゃに面白い。

例えば、いち早く犯罪現場の指紋に着目していながら、欧米の主流な指紋研究者(?)にほとんど無視された哀れなフォールズの話(彼は日本に滞在しており、築地には「指紋研究発祥の地」と書かれた碑が存在する!)や、シャーロック・ホームズが見せた指紋に対する懐疑的な態度、など学術論文的には「脱線ではないか?」とちょっと心配になるほどに、様々な人間味溢れるエピソードがふんだんに盛り込まれている。何より、第1章のタイトルは「幽霊の身元確認」で、心霊研究のためにはるばる日本から北米に旅した浅野和三郎なる人物が登場したりと、サービス精神たっぷりである(著者自身はそんなつもりもないのかもしれないが)。

だが、筆者の目指すところは、身元確認の科学の歴史を紹介することだけにはとどまるものではない。筆者は個人の身元=アイデンティティが、「客観的」あるいは「科学的」に同定されるとはどういうことなのか?という哲学的な問題に踏み出していく。特に、指紋のようなものよって同一性を保証されるところの「私」が孕む問題について、「私は誰であるか」という「主観性」の根源にあるような問いを、指紋によって自ら「客観的」に確かめる行為というのは、ある意味で「不可能」を抱え込んだ「分裂した事態」ではないか、と指摘し、

「写真ならば犯罪科学者すら出し抜いて、自分のものかどうかを言い当てることのできた私たちも、指紋の前では戸惑うばかりであろう」

とか、

「(生態認証を行なうコンピューターの)端末が、故意か事故かによって、『私』を誰か別人と特定したとしたら、私たちは『アイデンティティ・クライシス』に陥るのだろうか」

などと、ざわりと胸が騒ぐような問いを、筆者は投げ掛けている。

今日、身元確認の科学は、犯罪に関わる場面だけでなく、パスポートや銀行のATMなど、一般市民の生活の中にも既に侵出し始めている。今後、それはますます進んでいくだろう。そして、筆者は、きっと、上記のような本書で投げ掛けた問いに答えるべく、また深い知識に裏打ちされた、卓越した論考を発表してくれるだろうと思われる。
このレビューは参考になりましたか?
2 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By どぜう トップ1000レビュアー
タイトルは『指紋論』となっていますが、各章の表題がいずれも「・・・の身元確認」となっていることにも示されているように、全体としては、近代以降「身元確認」というものをどのようにしようとして来たかという内容です。

なので、主役の(?)「指紋」が第一章でチラッと顔を見せた後、暫く舞台裏に引っ込んでしまい、第二章以降「モルグ」における遺体の身元確認やらペルティヨンの人体測定法の話やらが長く続いてしまうと、正直「主役はどこに行ったんだ〜!!」という鬱憤も溜まってくるかもしれません。

しかし、少し我慢して(?)読み進めると主役がもう一度、それも「犯人探し」に関連したお話で上記の人体測定法の陰から再び姿を現し、終にはパスポートに何故肖像画由来の写真を貼ってあるのかというような興味深い話題も引き連れて、私たちの指紋押捺に対する拒否感やらATMなどにおける生体認証に繋がるお話で幕を閉じるという、ドラマ展開としてもうまく仕上がっていると思います。

ただ個人的には『指紋論』というタイトルからは上記の最終部分に関してもう少し深い物を期待していたということもあり、勝手ながら★をひとつ減点させていただきました。
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