本書成立の背景は、太田が真っ向から見解を明示する左派が殆どいないとし、蓮池が家族は被害者帰国が最大目的だが、救う会に利用・イデオロギー化され、北に強行姿勢を取る政治家を無批判に称揚し、自民党右派や兵器産業が喜びそうな方向へと世論と共に誘導されていったと、お互いが自己批判するベース上にある。
世論は、犯罪報道と同じく被害者の他人の不幸に上から目線で同調、加害者への憎悪が煽られ「制裁を加えよ」と声高に叫ぶが、個別で具体的な被害者の立場を十把一絡げにし、自分は何の傷も負わず怒りと悲しみの言葉を一方的にぶつけ、好戦的発言を行ってきたと両者は語る。
その無責任さは、ある日突然国家に拉致され、長く拘置所等に監禁され時には殺される冤罪被害者救済に、返り血を浴びる恐れから、このようないかがわしい同情的なクウキが同調しない事からも証明される。
そんな世論は、平沢勝栄のような救う会と家族会の背景や要改善部分を知る人の口も噤ませ、被害者攻撃へと変質もすると蓮池は言う。
9.17後日本は、慰安婦・強制連行等加害者として贖罪の歴史を生産していないにも関わらず、“晴れて”被害者として北をターゲットにナショナリズムの勃興を勝ち取った。
これは、北が「植民地支配に対し何の誠意も示さぬのに、何故我々が先に低姿勢で拉致問題解明の要請に応じねばならんのか」とする論理に全く対抗できておらず、怒りと憎しみの隘路に陥っただけで、何れも醜悪でしかない。
解決へは「歴史的な関係が深かった他国に突きつける事は自らにも突きつけるようにせねば問題は解決しない(太田)」を踏まえ、金賢姫が田口氏らに言ったように北の自尊心を生かした交渉を行う他ない。
北の目的は米との国交樹立・平和条約締結。
それが日本の頭越しに成立すると交渉再開は更に遠のく、と念頭に置き被害者救済を模索せねば、結果皆が空しい気持ちを抱くのではないか。