年初に週刊文春紙上で「効く効かない」の論争があり、さらに患者代表として立花隆氏との対談も採録されていたので、久々に近藤氏を読んでみた。
近藤氏の主張は非常にシンプル。すなわち「抗がん剤が効くという信頼に足る証拠がない」というその一点につきる。産学官の「抗がん剤ワールド」の利益を守るため、専門の研究機関や製薬会社が提出するデータには人為的に手が加えられていて信用できない。抗がん剤は毒性が強いので、明らかに治癒が期待できる血液がんと一部の固形がん以外には用いるべきではない。という主張だ。
自らもガンを患った立花隆氏との対談が本書のハイライトである。「知の巨人」としてのガンに対する知見でだけでなくガン患者として実体験をも持つ、このどこにも隙のない立花氏の突っ込みに近藤氏は耐えられるだろうか。
「戸塚さんの場合も、OS(=オーバーオール・サバイバル、全生存率。寿命が延びたかどうかの指標)だけを考えたら意味がないことになるかもしれない。けれども患者の病態というのは常に変化していて、苦しみが軽減されて良い状態になったとしたら、僕は意味があるんじゃないかと思います。だから抗がん剤の全否定というのはちょっと行き過ぎじゃないか、という気がするのです。」p57,立花
つまり、立花氏は、抗がん剤を飲んでも寿命は伸びない、という近藤氏の意見を認めたうえで、それでも人によっては値打ちがある、という。これにたいして近藤氏は、
「自分には効いた、という個人的な感想を積み重ねていっても、薬を認可するかどうかの判断基準にはならない。そこには客観的な指標が必要で、その場合、一番頼りになるのが、結局、生き死になんです」p58,近藤
と、正面から答えてはいない。しかし、当の戸塚氏は「
がんと闘った科学者の記録」のなかで、「先生によれば、化学療法を行わなければ1年程度の余命か、しかし化学療法を行えばもっと延ばせる、とのことでした」と書いている。こう医師から言われたら、誰だって辛い抗がん剤治療でも頑張ろう、という気持ちになるだろう。だからこそOS=延命効果には1mmのウソも許されないのだ。近藤氏はまさにここを問うている。立花氏は患者の立場を得て、むしろ目が曇ったのではないだろうか。
数年前は迷っていたが、今回本書と戸塚氏の「がんと闘った科学者の記録」を合わせて読んだ後、僕は抗がん剤は飲まない、と決めることができた。あとは来るべき死をどう迎えるかという問題は残るが、そこは科学ではない。またもっと切実であろう問題として、自分自身ではなく身近で大切な人がガンになったとき、その人とどう向き合うか、という問題が残る。が、これもまた科学ではない。