著者は1979年に東京銀行に入社、いわゆる金融商品の先駆けであるデリバティブズの日本導入と、世界での市場作りにいどんだ最初の世代の日本人だ。同行からバンカース・トラスト、そしてチェース・マンハッタンへ転じ、2001年に独立、RPテックを設立し現在に至る。理屈ではなく、現場を見てきた人だから今回の金融危機を正確に予測できたのだろう。
著者は自らの体験を基に下記のような話も展開し、冷静に考えれば今回の投資銀行バブルの崩壊と金融危機の到来は必然だったと思わせる。
・プロのディーラーたちは、サブプライムやCDOなどに高いリスクがある、というのはもちろ んみんな分かっている。だけど自分たちの業績は、リターンでしか比較されない。しかも、 投資するのは自分の金じゃない。だったら、0.001%の差だって、誰でも高いリスクを取り に行くという話。
・リスクを避けたところで、他のディーラーにリターンでちょっとでも負ければ評価されない なら、攻めて攻めまくるでしょう。危機を招いたのは管理の甘さとか現場の能力ではなく て、彼らにおカネを預けた投資銀行側の評価基準の問題が本質である。
・ディーラーは本当に、朝から晩までそういう感覚で生きていますから。自分の金じゃない し、元手が必要ならば、実績さえあればすぐ貸してくれるし、それでうまくいけば自にもど ーんとお金が入ってくるし、これはもうやめられない麻薬のようなエンドレスのゲームだっ た。
・人の金でばくちをするんだったら、誰でもハイリスク・ハイリターンのあるところに賭け る。それで失敗して会社が倒産しても、今まで儲けた金を返せ、とは言われないしね。
冷静に考えると夢みたいな商売だった。
・現場では、「表だったら俺の勝ち、裏だったらあんたの負け」だと誰かが言っていた。
普通だったら表で勝ちで裏で負けなんですけど、「表なら俺が儲かって、裏だったらあんた が損をする、俺は関係ない。これが金融のゲームだ」と、そういうことを言っている連中が いた。
・その感覚で金融において考えるとアングロサクソンのモデルは多分、少なくとも、しばらく はだめであろう。
・今回の金融危機によりシティーとニューヨークの地盤はかなり低下するだろう。
これは収益力が落ちるという意味でもあるし、金融の活力が落ちるという意味でもあるし、
金融史的にいうと、この2大国際金融都市の地位は、大きく変わる可能性がある。
・アメリカの金融の没落は、EUによる、米国からの金融覇権の剥奪、イギリスからアメリカに 行ったのを、今度はイギリスではなく、EU、ユーロ圏が取り戻す可能性も考えられる。
・ドイツ、フランスがどこまでできるか分からないけれど、ある意味での社会主義的な金融モ デルが出てくる可能性もある。
このように、著者の投資銀行での現場での体験に、金融の歴史的視点を加え、今回の金融危機の発生がある意味で必然、であることを端正な文章で解き明かしてくれる。
本書はどちらかというと金融マン向けの専門的部分が多いが、もっと、やさしく、噛み砕いた説明を知りたい方は、経済企画庁で景気予測に携わった後、投資銀行でデリバティブの現場に入り、今は、経済アナリストである藤原直哉さん著の「2009年世界大恐慌」を読んでいただきたい。そちらの本にもレビューをを書かせていただいたので、ご一読いただければ幸いである。