不動産投資の杜、コアプラス・アンド・アーキテクチャーズ代表の玉川氏が書いた本。
内容は非常に現実的であり、筆者が研究肌であることが伝わってくる。筆者の前職は統計解析の会社経営らしい。
また、本書のベースとなったという不動産投資の杜というwebサイトも不動産投資の全体像を見渡すのに参考になる。
筆者は、投資家には様々な種類と目的があり、投資ファンド型、年金代わり、相続対策などいくつかのパターンに分かれ、投資主体の目的により購入すべき物件も異なるとしている。そして、個人投資家が取るべき戦略はIRR(内部収益率)の高い物件こそが正解としている。
類書は個人投資家目線で書かれた本が多いが、本書は、ファンドなどプロ投資家が用いるテクニックを個人投資家も利用すると視点で書かれている。
3章で具体的にIRRとは何かを説明しているが、ファイナンスの理論を不動産に当てはめた高度な話であるため、経済や計算には無縁の基礎知識のない読者には多少難しい。IRRを計算するために必要なパラメータをいかに正確に取得するかが重要だと説いており、購入時〜保有期間中〜売却時のそれぞれについて、諸経費、税金などを几帳面に解説してシミュレーションしている。
購入者特典として「IRR計算のためのExcelシート」を提供しており、IRR以外にも月々のローン支払い、手残り、税金などを専門知識なくとも計算できるようにしている点は、難しい話を淡々とした後の落伍者フォローとしてはうまい方法である。
銀行融資については、銀行融資の大原則として、どのような属性や物件が好かれるのかを説明している。銀行により融資基準が違うのでサラリーマン層をターゲットにしている銀行とうまく付き合えと説いている。次に、銀行内部者へのインタビューとして、金融検査マニュアル、支店決済枠など融資システムの裏舞台を説明しているのは読み物としても面白い。
さらに、金融機関で相手にされない人向けに融資コンサルを経由した、いわば裏口からの融資の得方も書かれており、使うかどうかはともかく融資を受けるのが難しい一般投資家には良いヒントである。具体的な金融機関名は本書には書かれていないが、アマゾンキャンペーンが開催されており、注文番号を送ると具体的な金融機関名入りの融資基準一覧表をプレゼントするとしている。
物件の選び方では、不動産の価格は、
1.使用収益から逆算した価値
2.実需の価値
3.安全資産としての価値
という3つの要素から成り立つとしている。東京の堅調な経済的バックボーンに依存できる場所が安定しており、それは都心まで30分以内であるとしている。
ただ、誰もがほしがるピカピカの物件を買うのではなく、IRRを緻密にシミュレーションしてネット利回りだけでなく保有期間全体で見て本当に利益の出るものを選べとしている。
また、仲介手数料6%の物件、手数料を払わず購入する方法など、一般投資家には見ることのできない不動産業者の裏事情を解説しており面白い。物件購入時にチェックすべき書類の一覧表が付いているのは有用である。
6章の統計データベースは見事である。これだけの膨大なデータベースを無料で公開しているのは評価できる。
データを分析した結果、経年による構造別賃料下落率、ファミリータイプ住居は賃貸平米単価が安い、徒歩9分以内は空室が少ない、などが判明したと述べている。
修繕管理のポイントは、間に入る業者へ支払う手数料を減らして、おかかえの内装業者を持つことであるとしている。
壁、床、ユニットバスなどの部材ごとに修繕費用の目安を一覧で示しているのは参考になる。やるべきリフォーム、やるべきではないリフォームについて、収益に与える寄与度をベースに的確に述べている。
最終章では、売却の方法を説明している。ローン完済まで保有する前提ではなく、数年後に売却して利益を確定する前提でシナリオが組まれている点は類書とは違う視点であると言える。
基本的には景気の悪い安い時期に物件を購入して、景気の停滞局面では賃料収益で利回りを取り続け、景気浮揚時には物件を高く売却して利益を確定することとしている。(これが簡単にできれば誰も苦労しないのだが)そして、景気の停滞局面で物件価格が値下がりしてもロスカットされずに月々手残りが得られるのが不動産投資の魅力であるとしている。
これは投資ファンドのスキームを個人の投資物件にも当てはめた考え方のように見える。
筆者は不動産以外にも幅広い金融情報を研究している様子で、筆者が参考にしている情報ソースの一覧を公開している。CDS参考値などマニアックすぎて不動産との関連性はともかくだが面白いセレクションである。
総じて、いい加減な成功体験記のような類書が多い投資ノウハウ本の中においては、実践的で役に立つ本だと思う。
「まずはアパート一棟、買いなさい! 」などと指向は似ていて良書である。
ただし、ゼロからスタートの人には多少難しい内容であるため、すでに類書を何冊か読んである人向けと言える。