内容紹介
『おくのほそ道』は、まさしく日本文学史上に輝く紀行文学の傑作です。これは、もう本当に、断言できます。旅とは、何でしょう。それはある意味で、自分が旅先の様々な土地を見て廻る、すなわち自分が“様々な世界の観客”となって巡り歩く――ということです。観客は暢気なものです。ただ眺めていれば、よいのです。自分が“その世界の主役”となって苦労することは、ありません。ところが松尾芭蕉という人は、違いました。彼にとっては旅が日常であり、人生そのものでした。ですから、彼は旅先の様々な土地で“観客”であることに甘んじませんでした。どこに行っても彼は、まさに“主役”であろうとしました。つまり様々な土地を歩き、様々な人に囲まれて、それでいて、常にその場その場で精一杯に生きました。自分のできることを、一所懸命に為そうとしました。そんな芭蕉の“生きる必死の息吹”が、『おくのほそ道』からは感じられるのです。だからこの作品は、ほかの紀行文学にはそうそうお目にかかれない人間のエネルギーが、読者に伝わるのです。だから、日本紀行文学の傑作なのです。本書は、そんな『おくのほそ道』の面白さのエッセンスを、二十一世紀に生きる現代読者に確かに伝えたくて、書き上げたものです。じつは『おくのほそ道』の原文には、省略されている内容が、とても多いのです。江戸時代の読者は、それを承知で読むことが出来ました。しかし現代の読者には、何がどう省略されているのか簡単には解りません。したがって、原文をただ現代語に直訳しただけのものでは、その面白さの半分も伝わってこないのです。でも、だからといって、そのフォローのために文学の専門的な注釈がやたらと書き添えられても、それはそれで、読むのに骨が折れます。まるで“学校の勉強”のようになってしまい、肝心の「『おくのほそ道』の面白さを味わう」気分がそがれてしまいます。そこで本書では、原文に省略されている言葉や芭蕉の気持ちを大胆に書き足した「現代語版・おくのほそ道」として、本文を仕上げました。本書は『おくのほそ道』の厳密な現代語訳ではありません。しかし、だからこそ読者の皆様には、きっと気楽に読んでもらえて、『おくのほそ道』の面白さが満喫できるはずです。解説には「忠実の松尾芭蕉の旅」についての説明を、独立させて書きくわえています。これを読めば、『おくのほそ道』のフィクション性がよく解り、作品のより深い理解につながるでしょう。この本が出版のはこびとなった平成十四年(二〇〇二年)は、江戸時代に『おくのほそ道』が初めて出版された元禄十五年(一七〇二年)より数えて、ちょうど三百年めにあたります。三百年前、我々の先祖である多くの江戸時代人たちが『おくのほそ道』を初めて手にとって、芭蕉の語る旅の軌跡を楽しんだのです。それ以来、『おくのほそ道』は、かくも長く我々日本人に親しまれてきました。さらにこれから四百年、五百年……と、我々の子孫に読み継がれていくことでしょう。まさに『おくのほそ道』は、我々日本人の素晴らしい文学の財産です。
内容(「BOOK」データベースより)
江戸の隅田川を舟で旅立ってから美濃の大垣に到着するまで約5か月、全行程約600里に及ぶ大旅行。本書では、豊富な図表と易しい解説文で原文を解読すると共に、芭蕉を巡る様々な謎に迫る。