30代のアニー・オサリヴァンは定期的に精神分析医のカウンセリングを受けていた。それは彼女が不動産業者だった1年ほど前、オープン・ハウスにやってきたデビッドという男に拉致誘拐された事件の経緯を話すことで、心に負った傷をいやすためだった。アニーが語る事件の真相とは…。
カナダのヴァンクヴァー島に育った不動産業者でもあった作者が書いたデビュー作品です。アニーが今はカウンセリングを受けていることから、何らかの形で誘拐犯のもとから脱出できたことは読みとれますが、誘拐された理由も、犯人の真の素性もなかなか明かされることなく、ひたすら厳しい拉致生活が事細かに語られていくことになります。
一人称の語りで、文章は大変平易。その上、奇異な物語が怒涛の展開でどんどん進むので、頁を繰る手がもどかしくなるほど。なかなか読ませる筆力は、とてもデビュー作とは思えないほど。一気に読み通してしまいました。
物語は半分過ぎたところでアニーの脱出を目指した決死行は一定の成果を見るのですが、そこからが意外な方向へと物語はねじれていきます。そしてようやく見えてくる結末の、あまりにも痛ましく苦い姿に言葉を失います。
ですがこの物語は、極限状況に置かれた人間がそれでも決してあきらめることのない力強さを込めた一行で、見事にしめくくられるのです。
一級のミステリーとまでは言いきれませんが、それでも私はこの物語を十分楽しんだと言えます。