ニューヨークで実際に起きた事件をもとに書かれた原作、発売当時に読み衝撃を受けた。
そしてクローネンバーグが映画化と聞いて、彼のそれまでの作風にどうにもあわないこの長編をどう料理するのか、
不安を抱えつつ映画館に行ったのだが、その素晴らしさにひたすら圧倒されたものだ。
静寂、美、耽溺、愛憎など、これまでのクローネンバーグ映画には見られなかった面が一気に開花した作品。
そして冒頭からエンディングまで、これほど“静かだが底知れない”不安と恐怖を感じながら観た映画は、僕にはほかに記憶がない。
個人的にはクローネンバーグ作品のベスト1であり、スリラー映画の傑作と言いたい。
このリマスター版は、待ち望んでいたファンにも、そして初めて観るという人にも、絶対満足するもの。
主要舞台となるクリニックの基調色の青と、オペ室での赤の対比はとても鮮やかであり、
ハワード・ショアの優美な音楽は、後に彼が手掛ける名作「羊たちの沈黙」を彷彿とさせる。
とにかく全てが、残酷なまでに美しい。
この後「運命の逆転」でアカデミー主演男優賞を取るジェレミー・アイアンズ、本当に見事に正反対の性格の兄弟役を演じ分けている。
短いメイキングで、「舞台演劇では同時に何役もこなしているから、難しくはなかった」とサラっと言っているが、
次第に崩壊していく精神状態も含めれば、“何役分やっているんだろう?”
というくらいの彼の演技力なくしては、この作品は成り立たなかったと、改めて感じる。