先日あるきっかけで久しぶりにこの映画を見ました。驚いたことに作られて20年の歳月を経てもなお、この映画は古びていないどころかますます魅力を増し、強烈なメッセージを与えてくれたのです。思えば今日この映画は坂本龍一のテーマ曲があまりにも有名で、それとは対照的に映画本編があまり見られていないし評価もされていないように感じます。しかしこの映画は明らかに世界に誇ることの出来る邦画の代表ですし、戦闘的映像作家、大島渚監督が辿り着いた1つの頂点です。
そもそも大島渚の映画は怒号飛び交う対話劇、社会に対するドグマティックな告発など、実験的で過激な「創造社」映画時代に真骨頂があると考えられます。しかし大島渚の凄い所は、そのキャリアの後に情念の世界を濃密に描く映像作家として脱皮し、また別個の高みを持った活動をし続けていることにあります。この『戦場のメリークリスマス』もまたその文脈にあります。とても美しい映画である、という当たり前の事実に驚嘆するのです。
この映画は、戦争という極限状況を通して浮き彫りになる東洋と西洋の死の観念・集団と個人のあり方の相違、そしてそんな壁を乗り越えて心が通う劇的な瞬間を描いた作品です。ヨノイもハラもキリスト教的な慈悲と救済を受け入れて(=「種を蒔かれて」)、従容として死出の旅路につく訳です。対照的にセリアズは神ではなく弟に許されたという意識によって初めて安らかに死んでいくのですし、ローレンスにとってのクリスマスは神の恩寵ではなく、ハラの温情に触れた忘れ得ぬ日なのです。不思議にも宗教意識が交錯し、心が通じ合ったその時に、戦争という状況が「死による決別」を否応なしにもたらすのです。かつて中学生だった私はよく分からないのに大きな感銘をこの映画から受けたものでした。そして今、よく分かった上でやはりあの頃と同じ感銘を受けています。これぞ名作と言えましょう。是非見て下さい。