「武田家滅亡」の外伝的要素の濃い短編集。
1)木曾義昌の弟、木曾義豊を主人公にした「木曾谷の証人」は、家族愛が胸を打つ。木曾谷の領民と家族を守るために、義豊が懸命に生きる姿が印象的だった。
2)下条頼安の登場する「要らぬ駒」は、城郭での戦闘シーンがあって楽しみの一つになっている。作者が何度もこの城跡を訪ねたり、実際の合戦祭りに参加するなどの努力の結晶が詰まった一品になっている。臨場感溢れる合戦シーンには手に汗握る思いだった。自分自身が望まないままで当主にならざる終えなかった頼安が、それでも何とか当主として立派になろうとしているところなどが印象的だった。後半の、どんでんどんでん返しが見事な作品だった。思わず、そう来たか! と膝を叩いた。
3)武田信玄の弟、武田逍遥軒信廉の「画龍点睛」では、彼ら兄弟の父親信虎と長坂釣閑斎光堅との駆け引きは面白かった。些細な理由から、武田家の滅亡が始まったのだと感じた。
4)「温もりいまだ冷めやらず」は異色な感じがしたが、こういう視点もあったかと思った。友情とも愛情ともつかぬ感情の中で、盛信と源三郎が最後までお互いを信じたところが感動的だった。それさえも信長が利用したところが、恐ろしいような気持ちになった。
5)利巧というのが本当に危機の時に、命を縮めることもあるのだということを感じた。穴山梅雪信君主人公の「表裏者」。家康が相手では少々利巧なだけでは太刀打ちできない。上には上がいるものだ。右往左往する信君が哀れにさえ感じる作品だった。