07年の大河ドラマ風林火山で、信玄と謙信だけでなく、北条氏と今川氏の動向、そして謙信の関東侵攻に結構時間を割いていたが、甲相駿越のパワー・ゲームに関心を持った人なら本書は必読。本書は諸大名の戦争・和睦が繰り返される様を、特に北条氏対上杉氏(前半は関東管領山内上杉氏及び扇谷上杉氏、後半は山内の家督を継いだ越後・上杉謙信)の関東支配をめぐる抗争を軸に述べ、戦国大名の外交方針の転換によって国衆が右往左往するように見えて、実は戦国大名の行動が国衆の意向によって規定された戦国時代の実相を教えてくれる。
著者は戦国時代の関東政治史に関する多量の書状等史料に目を通しているようで、大名・国衆の本音とタテマエがよくわかる。数多の関東諸勢力の興亡を新書1冊でかなり詳しく把握できるだけでも優れものだ。
北条氏対上杉氏の55年の戦いは正当な関東支配者・関東管領はどちらかという政治イデオロギーの衣を装う。その両者が一時は同盟し、また争うようになるのだから、国衆は振りまわされる。しかし、国衆は対抗勢力との抗争に有利となるように北条または上杉を都合よく選んでおり、上杉も北条も国衆をまめに支援しなければならない。それを怠ったらたちまち離反される。時に国衆は大名間の外交を仲立ちする。なるほど、戦国大名の行動は国衆の意向に規定されている。
国衆と戦国大名との違い、現代に至る地域の中心が作られたこと、さらには「御国」のために百姓を徴兵する論理が作られたことは、戦国時代の理解を深いものにする。また、1560年以降謙信は毎年のように、それも冬に関東に在陣していたとは、政治的理由だけでなく経済的理由もあったのだろう。
一点望むとすれば、似た名前の同族の人物が多く、それら人物があるときは北条方、別のときは上杉方として登場し、少々混乱するので、系図は巻末にまとめる、年表をつける、江戸太田氏と岩附太田氏の関係はもっと早めに説明する等の工夫が欲しかった。