本書は筆者が「あとがき」で言及しているように、戦争を一次的な視座――歴史学的、社会学的な分析――から考察したものではなく、二次的な要素――思想――からアプローチした、既刊の「戦争」書籍とは一線を画す斬新奇抜な作品である。『戦争論』で戦争の本性を導き出したクラウゼヴィッツを起源としてバタイユ、レヴィナスなど著名な哲学者の思考を辿りながら多角的な視点で「戦争」を論じている点は非常に興味深い。
社会主義の瓦解(ソ連の崩壊)によって「歴史の終焉」という言葉が巷を席捲した。しかし、字義通りの意味合いとは違い、そこには重要な論理が隠されている。
世界はついに「人間」ものとなり、終焉後の世界はいわば「人間の王国」であり、それ以後世界にあらゆる変化が起きようとも、それは「人間の王国」という環界をはみ出すものではなく、そこで人間はつねに主体として振舞い、どんな出来事にも自分の尺度をあてはめ、それを<人間>の領域に回収してしまう(p,209)。
ここで問題となるのは「人間」とは誰を指すのかということである。これは本書で確認して頂きたいが、「啓蒙思想」や「ポストコロニアリズム」などといった非常に多岐に渡る領域にまで深く関与するものである。
少々抽象論になってしまったが、先述したように「戦争」を多角的な視点から深く掘り進めた点には非常に熟慮させられる。現代思想に精通していなくても十分に読破できる内容も高評価の理由の一つである。イスラームの叫びが高らかに宣言される時代柄、一般論から考察するのでは不十分であり、そのように困難な問題にもヒントを与えてくれるかもしれない。