着眼点がいい。著者は南北戦争当時最新技術だった「電信」に着目した。
もともと弁護士であり、軍事には素人だったはずのリンカーンが、電信の便利さにすっかりハマッて、最前線からリアルタイムで報告を送らせ、将軍たちに実にこまごまと指示を出していくようになるようすが、生き生きと描かれている。南軍の妨害工作で電信線が切断されると、とたんに情報が入ってこなくなる。戦争省電信室の小さな部屋でイライラしながら情報を待つリンカーンが目に見えるようだ。
本書は、歴史の醍醐味を伝えるには、着眼点が大事だというお手本のような本である。南北戦争というと、日本語で読めるわかりやすい概説書も今までなく歴史好きが「飢えて」いる分野だった。将軍たちとリンカーンとの電信でのやりとりを中心に説き起こす本書では、リー対グラントなどの将軍たちの血沸き肉踊るエピソードと、奴隷解放宣言をめぐる葛藤や執筆秘話など、興味深いエピソードを詰め込んでおきながら、通史としても理解が進むようになっている。
一方で、本書の根本テーマは、南北戦争でのリンカーンの戦争指導が、イラク戦争までいたる「アメリカの戦争」の原型であるという著者の見立てを立証するというものなのだが、実はそれには成功しているとは言いがたい。
たとえば著者は「戦争を終わらせるためには、反乱軍の総指揮をとっているリー将軍の息の根を止めるしかない、というリンカーンのこのくだりは、ブッシュ大統領がビン・ラーディンを『捕らえるか、殺せ』と演説した言い回しと大差は無い」と述べる。だが南北戦争は近代戦への過渡期にあり、近代戦においては敵の野戦軍を撃滅した側が勝利するのであって、将軍の首は、テロリストの首謀者の首とは等価ではないであろう。リンカーンはこの場合比喩的な意味で使っているものを著者がバイアスをかけて解釈しているように感じた。