戦争を人間の社会、技術革新、軍隊の産業化、産業の政治化と関連付けて世界の歴史を捉え直す。全編を貫くキーワードはコマンド(指令、命令、注文)である。
古代の戦争における兵士の維持はコマンドによる食料調達と不可避であった。食料や馬の飼料は現地調達というコマンドによって維持された。この方法は征服地も国内も疲弊させる。やがて徴税がコマンドヒエラルキーのどの階層にとっても良い解決方法として定着する。
この本の大胆なところは、世界史における戦争のあり方をマーケットにより一変させた先進国として11世紀から16世紀の中国を挙げて1章を割いていることである。技術革新や市場の活性化により当時の世界で最も進んだ戦争形態を生み出した。しかし、内政の誤りやモンゴルの勃興によりその勢いは衰える。ただし火薬や羅針盤が伝わったヨーロッパでは、戦争がビジネスとして成り立つようになる。
やがてイギリスとフランスで人口爆発が起こり、戦争と国家は大きな転換を迎える。産業革命とフランス革命である。産業革命はボルトアクション式小銃や大砲に代表される兵器が大量生産され、革命は職にあぶれた農民を自由と国家のために戦う兵士にする口実になった。すなわち、増えすぎた人口を政府のコマンドにより軍や産業が吸収し、大規模戦争を可能にしたのだ。戦争の産業化である。軍隊の教練が自由意識を生み、死ぬまで戦う兵士を量産した。合理性が産んだ非合理である。
19世紀から20世紀にかけては、いよいよ軍産複合体が生まれる。開発のコストが大きくなった軍需産業は政府からの定期的なコマンド無しでは存続できない。人口増が失業者を生むと、失業者対策として軍需産業は恰好の分野だ。軍や政府はコマンドの欲求から逃れられない。これは国家間の緊張をもたらし、やがて暴発して2度の世界大戦となる。これはドイツや日本の人口爆発による影響が大きいと著者は指摘する。ナポレオン戦争、2度の世界大戦を経て先進国の人口増が緩やかになったという指摘には虚を突かれる思いだ。
人口が増えれば、社会は不安定化する。溢れる失業者を吸収するために、雇用の確保・軍備増強・移民が同時に起きる可能性が高い。従って次の不安定地域はかつての第三世界、中国やインド、イスラム圏になるだろうとの予測は執筆から20年以上経過して、ますます現実味を帯びてきている。人間の社会性と技術への欲望、コマンドという欲求を、戦争の世界史として非常に明確に記した名著だと思う。