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この本には、きらきらと光る人間観察の断片が、ただただ無尽に、満遍なく散りばめられています。それに比べると、現代の小説(一般化しすぎていることを了解しつつ)は、たった一つの断片をモチーフに、ストーリーを成立させているケースが多いように思います。物語の書きかたの手法が変わってきているのでしょう、2時間のうちに何か分かりやすいメッセージをこめなければならない映画の文法と重なる部分があるのかもしれません。俗に大作といわれる作品と、現代の小説の大きな違いは、そんなところにもあるなどと考えさせられました。
歴史小説としても素晴らしい内容ですが、それ以上に、平時と、戦時つまり極限状態における、人間のプライオリティの変化や、登場人物一人ひとりの善悪の二面性など、複雑な人間心理に達しているという意味で、この小説は普遍性を獲得しています。状況によって、善にも悪にも、強くも弱くもなる個々人の長所と短所をみごとに描いていきます。そしてトルストイは、人びとのなかにある、理屈の介在しない情念(パッション)に注目し、その圧倒的な力を何よりも評価します。
全編を通して、トルストイはナポレオンという個人の情念に歴史の流れを見る歴史家の視点を批判し、始まった戦争がそれ自体で生命力をもって、その望む方向性に転がっていくスピードを描きます。それは、「必然」と「自由」という背反する二つの力を見つめ、そのバランスの上に成立する歴史・人間の営みを俯瞰できる、稀代の小説家トルストイならではのものでしょう。4冊と長いですが、読みにくくはないです。
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