・とめどない母親や姉への愛おしさが、全編を貫いている。「惜しみない愛に包まれたい」、心の深奥からの叫びが、其処彼処から溢れてくる。読むほどに切なく、生を与えた親への素朴な思いが、一語一句から湧き出てくる。その乾いた孤独を先生からわかってもらえず、反抗を貫く。一途なまでの少年の思いが、いじらしい。犀星の生い立ちのこういった重さが、満たされなさが、リリシズムに溢れた、読み手の琴線に響く作風を生んだのでなかろうか?嫁いだ姉の家を訪れる心、残された教室で罰を受けながら屋根瓦を数える寂寥感。私たちの根幹に潜在する孤独な魂を、犀星は鮮やかに描き出した。その寂しさを慰撫しあいながら、人間は生きていかざるを得ない。人間存在の根本テーマを、自らの足跡の中にどっしりと書き綴った。幼い頃から静かな孤独を引き受けざるを得なかった犀星の、心の雫が伝わってくる佳品です。