私は、奥田英朗の新作、「無理」、「純平、考え直せ」を読んできて、「最近の奥田英朗は、一体、どうしちゃったんだろう?」、「作品が面白おかしさえすれば、それで良いのだろうか?」と思っていた。これらは、いずれも、格差社会の負け組を主人公にした後味の悪い作品となっており、私には、未来への希望が全く見えない格差社会の負け組の人生を書きっ放しにしているだけのようにしか見えなかったのだ。それと比べると、この「我が家の問題」は、久し振りに、暖かい眼差しで人を描いた奥田作品に出会ったという感じがする。
ここで描かれている6つの「我が家の問題」は、必ずしも、どこの家庭にもあるような「ささやかだけれども悩ましい」問題ばかりではなく、かなり深刻な問題も含まれている。しかし、どの主人公たちも、最後には、そうした問題を前向きな気持ちで乗り越えていこうとする善男善女ばかりであり、非常に読後感が良いのが特徴だ。ただ、その反面、「無理」、「純平、考え直せ」にあるような毒が全くないこうした奥田作品には、今一つ、インパクトに欠ける面があることも否めない。「あちら立てれば、こちらが立たず」で、作品作りとは、なかなか難しいものだと思う。
そんな中にあって、この短編集一番の傑作だと思ったのが、「夫とUFO」だった。「夫がUFOを見たと言い出した」、「エムエム星雲からやって来たコピー星人」などと書かれると、読んでいて、バカバカしく思えてくるのだが、これが実は、職場でこき使われるサラリーマンの悲哀を描いたなかなかの物語なのだ。そんな夫を救出しようと、多摩川の堤防で夫と対峙するラストは、滑稽ながらもハートウォーミングな絵になるシーンであり、笑えて、泣けるのだ。