漱石の弟子、物理学者寅彦の随筆集から厳選して、文学的なものを中心にまとめている。巻頭は「団栗」…ドングリを拾う幼子に亡妻を偲ぶ随筆で、時を超えて人の心を打つ名作。続いて「月見草」「野薔薇」など花物語を集めている。
「夏目漱石先生の追憶」にも貴重な証言がある。『虞美人草』を書いた頃、実験の話としてニコルという学者の「光圧の測定」を説明したところ、すっかり要領をのみ込んで書いたのが野々宮さん(寅彦がそのモデル)の実験室。リアルに描かれていて感心したという。
本書あとがきは寅彦俳句「客観のコーヒー主観の新酒哉」を挙げ、著者はこの句意を「客観の挫折、主観の誇り」としてみなしており、〈炯眼〉と思われる。 切れ味のいい佳書である(雅)