本書は以下の二点で真の意味で初めての憲法演習書であるということができる。
1、司法試験における答案(論証例)に向けて、そこに至るまでの過程につき必要十分な解説を行っている点
→これまでにも、学者が書いた事例演習本は存在していたが、その多くは答案を書くという点を本書ほど重視していない。その結果、事例演習に名を借りた筆者の自説の披瀝にとどまり、演習本によせる学習者のニーズと合致していない場合が多い。本書は答案例が掲載されている点で既にこれまでの演習書にない工夫がみられる。しかし、小山剛先生の法セミでの本書書評にもあるように、むしろ特筆すべきは答案例が載っていることより、答案例を着地点としたきめ細かな解説がなされていることであり、参考文献の指摘にとどまらず引用がその都度されている点など極めて学習者に親切である。
2、憲法論を権利論として構成し、具体的事例の中で主要な権利の権利論としての組み立て方を提示している点
→1と重なるが、司法試験受験生の答案作成を意識して書かれる結果として、具体的事例に即し、どのような権利が侵害されているか見抜きどのような訴訟類型の中でどのように憲法上の権利として構成するかという、事案に即した特殊具体的なプロセスが示されている。
法セミ連載で蟻川恒正先生は、少なくともcaseに関しては、これまでの憲法学では法令・事実・対抗を読むという残り半分の憲法学ともいうべき部分が軽視されてきたのではないかという問題提起をし、そこに特化した演習を連載した。これにおいては、意図的に従来の憲法解釈学の記述があえて省かれた。
翻って本書をみてみると、本書は従来の憲法解釈学の通説・判例・有力説の立場を示しつつ、これを具体的事例における事実・法令を読み込んだうえでどのように原告・被告の対抗に持ち込むかを詳述するものである。換言すれば、本書はこれまでの憲法学と蟻川先生のいう残り半分の憲法学を含めた、事例について憲法学が扱うべき全部分を初めて扱った演習書といえるのではなかろうか。
以上の1,2の点で、司法試験受験生にとってあるいは演習書の憲法学における位置づけにおいて、これまでのものとは異なる位置にある演習書である以上、比べるべき対象がなく星5以外に評価のしようがない。