民主主義や立憲主義といった,憲法の基本概念の意味を捉えなおし,さらに平和主義を定めた憲法9条の再解釈を一般向けに提示した本。著者は日本を代表する憲法学者である。
従来からの憲法学界の立場では,「自衛隊は違憲」と評価される。政府解釈はもちろん合憲である。このギャップをどう考えるかはいろいろだろうが,たとえば本書の著者と政治学者の杉田敦は,対談で次のように述べている。
杉田 長谷部さん以外の憲法学者がよくしてきた議論に,「北朝鮮とか中国がけっして攻めてくることはない」。理由はよくわからないのですが,とにかく「絶対攻めてこないんだから自衛隊は必要ない」。そういことをよく憲法学者の人は言っていましたよね。
長谷部 そういう人もいらっしゃることは,私も知っています(笑)。
杉田 その人たちにうかがいたいのは、「なぜあなたは中国や北朝鮮の政策決定について知っているんですか」ということです。
こんなことを言っているのでは,憲法学者は馬鹿にされても仕方ない,と思う人もいるだろう。本書は従来の学界の通説とは異なる立場を採る。具体的には,自衛隊は違憲とは言えない。では9条を「実態」に合うように「改正」すべきなのか。これについては否である。根拠と理由は,本書の中で詳細に述べられる。
それでは著者のこの議論は,学界ではどのように受け入れられているのか。これについては
『
Interactive憲法』第16章(pp.143-154)
に記されている。なお同書によれば,本書で「一番いいたかったことは,立憲主義とは何かってことなんだよね」(p.144)。
本書の出版は2004年だが,その後著者は一般向けの新書として,以下の2冊を出している。
(1)『
憲法とは何か (岩波新書)』(2006年4月)
(2)『
これが憲法だ! (朝日新書)』(2006年11月)
いずれも「(近代)立憲主義とは何か」を中心に論じられており,本書の内容と重なる部分も多い。立憲主義自体について最も詳細に述べられているのは本書だが,だからといって一番分かりやすいということにはならない。立憲主義の説明は簡潔にとどめ,そこから派生的に導かれる議論を示した方が,視野が広がるということもありうるからである。本書と上記2冊は,いずれもそれなりに難しい。
お節介を承知で言えば,「憲法のことはよく知らないんだけど」という人には,上記(2)をすすめたい。これは完成度の高い対談本で,ともかく最後まで読み進めることはできる。このレビューで引用した長谷部教授と杉田教授の対談も,同書からのものである(p.89)。以前から憲法については関心がある,という人は,どれを読んでも大丈夫だろう。立憲主義や民主主義の説明自体は,本書よりも(1)の方がコンパクトである。