読者の特別な知識を前提せずに、「憑きもの」にかんする私たち日本人の認識体系を紹介する筆者の手際には感銘を受けました。また、教科書的な分類紹介におわらない、知的好奇心に満ちあふれた筆の運びもすばらしい。軽薄な「憑きもの妖怪ガイド」とは次元の異なる、まさに「読ませる」本でした。われわれの社会の底辺に横たわる「構造」を、社会経済的システムとしてのみ引き出す(西洋風の構造主義)のではなく、また、個人的な深層意識に根を求める(19世紀的精神分析)わけでもない。言ってみれば、「社会的な深層意識構造」とでもいうべきものを探求する学問としてこの分野はある。そしてこの分野は、共通のルールを遺伝子のうちに含み込んでいる(共通の「呪いが効く」心性のうちに生きている)自国人にしかできない研究なのではないでしょうか。われわれの現代社会を読み解く鍵になる可能性の高い学問体系への入門書として、有意義だと感じました。