タイトルがテレビ放送「いのちで読む般若心経」から「生きて死ぬ智慧」に変わった。買うには勇気のいるタイトルだ。教育を受けた期間を除けば、僅かな研究者としての生活だったようだ。闘病生活は、エネルギーを要する。エネルギーは、自然には湧いてこない。体力も精神力も自らの志向と行為が求められる。柳澤さんの出会ったものは、今日言うところの宗教という飾りの付いたものではなく、それ以前の本能的に手を合わせる気持ちを表すものと受け取ってよいだろう。
DVDは三部作になっている。メニュー1が朗読で27分49秒、メニュー2が柳澤桂子インタビューで15分39秒、メニュー3が柳澤桂子・松原哲明対談で24分23秒。通しで約68分程度。朗読は、NHKの広瀬アナウンサーの落ち着いた明瞭なことばで、詩の朗読のように透き通っている。小椋佳さんが、DVD『永平寺』で述べていたように、言葉で描こうとすると長くなって描ききれない、詩の世界が、内外52箇所の季節と時間を背景シーンとして映し出され、混交した美しさを見せる。
インタビューでは、沢山の命は一枚の布のようなものである、濃淡があるに過ぎず、一元の世界である、このようなことを述べられている。西洋の教育を長い間受けていると、主体、客体にみるようなフランスの哲学者の影響を疑ってみることも必要だ。
松原哲明住職は、DVD『般若心経を語る』の講師。坊さんだって時々お経を間違えるときもあるという実直な僧侶。柳澤さんは、この教えを一言一句からではなく塊、塊として学んでゆかれた。エントリーポイントは、是諸法空相。「お聞きなさい あなたも 宇宙のなかで 粒子でできています…あなたという実体はないのです あなたと宇宙は一つです」は、柳澤さんの訳。締めくくりは、馬祖道一の平常心是道。
般若心経を一万回ほど唱えてから、ご覧になられると、約70分の時間がほんのひと時に感じられよう。