「グレート・ギャッビー(愛蔵版)」には訳者村上春樹が、『「グレート・ギャッビー」に描かれたニューヨーク』という小冊子を付録として添えていて、和田誠の挿絵と共にこれがちょっと楽しめる仕掛けとなっている。
どんな物語にも大抵一つや二つハテ、ドウシテナンダロウと訝しく思う筋書きがあるもので、村上春樹はこの中で、トム・ブキャナンがマートル・ウイルソンと秘密の愛の巣として構えたアパートメントが、ニューヨークのセントラル・パークをさらに北上した158丁目という"ちょっと落ちた地域"にあるというのが、なんとも腑に落ちないと感想をもらしている。
どうでも良いことには違いないが、僕にとってはこのマートルがトムとニックの三人でそのアパートメントに向かう途中、"あそこの犬が一匹ほしい"と10ドルで買った茶色の小型タオルのような毛並みのエアデールの行方が気にかかる。一体この子犬は何処へ行ってしまったのだろうか。
この子犬のための上等な散歩用の銀が編み目状についている紐は、マートルが事故死したあと家の引き出しにティッシュペーパーにくるんでしまわれていたし、後日トムがあのアパートメントを引き払いにいったとき、サイドボードの上の子犬のためのビスケットの箱をみて赤ん坊みたいに泣いてしまったというのに、肝心のこのエアデールはどこかへ茶色の煙のように消えていなくなってしまっている。
マートルの妹のキャサリンが連れていったのか、階下の住人であるミスター・マッキーが引き取ったのか、まぁどうでも良いことだけれど。