本書は喫煙する、すなわちニコチン依存症に陥った著名人の短文集である。本書に展開されているメッセージの骨子は、病院の診察室で耳にする喫煙者の反論となんら変わることがなく、タバコ擁護には特段教養や学歴が要らないことがよくわかる。
鋭い観察眼で社会や文化を批判する力を持っているはずの文筆家達も、ニコチン依存症になってしまえば毒物タバコを礼賛崇拝し、好意を持って禁煙を勧める人々を攻撃する、というタバコの恐ろしさをあらためて目の当たりにすることが出来る。
なお、「個人の嗜好に介入する禁煙ファシズム」「禁煙ナチス論」は国際的に組織されたタバコ産業の戦略によって編み出された、レトリックであり、その詳細は雑誌『タバココントロール』Nicotine Nazis strike again、On playing the Nazi card (2008年)で詳しく検証されている。日本ではタバコ産業がソフト戦略を採っているため、ファシズムキャンペーンは「個人の意見」として、本書のように著名人の意見として公表されていることに注意されたい。
喫煙者は「タバコをやめて長生きしてください」「タバコの煙を吸わせないで」という非喫煙者の真摯な声に、低俗なレトリックを捨てて対応する必要があるだろう。喫煙者は結局「長く苦しんで早く死ぬ」からだ。